【教えて!園長】とは、私たちが素敵だと思う園長先生にインタビューをさせていただき、園の取組みを紹介する企画です。
本日は、社会福祉法人龍美ハッピードリーム鶴間の土橋一智先生にお話を伺いました。
(インタビュアー)土橋先生、本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
社会福祉法人龍美の考える、子どもたちの姿に「自主性を持ち、生きていくことのできる人」とありますが、まずはどのような保育を実践されているのか教えてください。
はい。保育指針も大事にしながら、基本的には子どもの興味関心を広げていくような保育を行っています。
例えば、昔ながらの日本で言えば、先生たちの決めたことを一緒にできる子が、「いい子」ではなく、同じ保育の時間内にでも、自分の興味のあるコトや友達、いろんなものに主体的に自分で選択して取り組んでいける保育を行なっています。
手法で言うと、保育計画はウェビングで行っていたり、保育実践の中では一部に「プロジェクト型保育」を取り入れています。
―プロジェクト型保育を取り入れているのですね。
はい、レッジョエミリアのプロジェクト型保育を数年前に勉強させていただいて、子どもたちの興味関心を広げていきながら、子どもたち自身が保育園での生活をアレンジしていくように促しています。
例えば、「今日はみんなで絵を描きましょう」ではなく、一人で絵を描く子もいれば、お友達と一緒にブロックを積み上げる子もいて、絵本を一人でゆっくり読みたい子もいるように、一人ひとりの個性と発想を大事にして、子どもたちがいろんなことを自分で選択して環境の中で生活できるよう工夫しています。
また、トイレについても、「この時期だからおむつが外れなければいけない」「一人でトイレに行けなければいけない」といったように、大人の価値観の押し付けや一人ひとりの個性を潰すようなことはしないようにしています。
大人の私たちがそうであるように、トイレに行きたいときに行けばいいし、食事の量も自分の食べられる量を把握して選んだり、好きな物嫌いな物をきちんと主張して友達とやりとりしながら、食事をするというようなやり方をしています。
なので、当園ではセミバイキング形式にしてきちんと子どもたちがコミュニケ-ションを取りながら食事を配膳して、自分が選んだ量をきちんと食べきる充実感を味わったりできる環境を作っています。
―生活のあらゆる場面で本人の選択を尊重しているのですね。
そうなんです。決まった量を配るだけなら10分で終わる配膳が40分50分かかってしまうかもしれないけれど、それが子どもの育つ力として必要なのであれば、それを理解して取り組んでくれる職員がたくさんいてくれることには感謝ですね。
このような理念や方針を実践するために、職員とのコミュニケ-ションでどんなことを工夫していますか?
・・・伝わってるのかな…?(笑)
―そうでないとできないかと思いますが…(笑)
私は他業界からご縁があってこの法人に飛び込んできたのですが、元々うちはブラックと言われても仕方ない状況だったんです。サ-ビス残業や持ち帰り仕事は当たり前、有給を取らないことはやる気の証、自己犠牲が当たり前、みたいな感じでした。
そんな中私は管理者という立場でここに来て、わからないことだらけだったので、「みんな頑張ってるな、俺も頑張らなきゃ」と思ってがむしゃらに働きました。
そして見事に心身共に崩壊して4ヶ月間も休職するという経験をしました。
保育業界の当たり前に合わせていこうと頑張ったがゆえに守れなかった職員もいました。職員の意識自体もこれまでの常識が当たり前になっていて、価値判断が無茶苦茶になっていたように思います。
―そんなご経験をされていたのですね。
この経験を経て、「ハッピードリームの常識は一般社会の常識」というキ-ワ-ドで改革を始めました。
改革で意識して伝えたことは大きく2つです。1つは「考え方が異なるのが当たり前という前提を持とう」ということ、もう1つは「自分の価値観と考えは伝えなければ伝わらないから、口できちんと伝えられるような風土にしようよ」ということです。
「園長、主任は理解してくれているはず」や「保育に関しては他の職員も同じ方向を向いているはず」と思いがちですが、みんなが同じものを見ていたとしても、経験や性格によって、全く異なる見方や考え方をしているのが当たり前ですよね。
また、何か1つの課題・問題・解決しなければいけないことがあったら、「分かってよ」ではなく、ちゃんと口に出して解決策を話し合って、1つひとつやっていくことを当たり前にしていこうと言い続け、根付かせていきました。
―まずは言い続けるということを実践されたのですね。それでも意識の変化が起きて定着するには時間がかかりそうですが。
改革を始めてから、定着するまでに4、5年かかりました。今では自分で発信しない限りは解決できないということも職員は理解してくれています。
働く環境づくりで大切にしていることがあれば教えてください。
電話応対も一般企業のように丁寧な対応の徹底、残業をなくし、有給も取れる風土にしていきました。
一人ひとりの職員の声に耳を傾けながら、最大限尊重していったら、離職する人がいなくなり、有休消化率もまだ100%とは言えませんが、8割以上と言えるようになりました。
今では、職員自ら、水曜日はノー残業DAYにしようと自発的に始める等、働き方を自分達で良くしていこうという取組みが見られるようになりました。
―風土が根付いてきているのですね。
そうですね。うちでは、もう一つ大切にしている風土があります。それは、「安心して失敗できるような環境を作ること」です。チャレンジした上での失敗は絶対に責めないからどんどんチャレンジして欲しいと伝えています。
ただ、子どもの命に関わる「してはいけない失敗」が保育園にはあるので、そういうところは徹底的に職員に意識付けと仕組み作りをしています。理念に基づくことは前提ですが、チャレンジをすることは、新人もベテランも関係ないと考えています。
―失敗に対する心の安全が保たれているのですね。
こういった考え方や風土が定着したおかげで、仕組みやツ-ルの活用も積極的に行えるようになりました。
―具体的にはどんなことですか?
一つは「ICT化」です。
書類もどんどんデジタル化を進めています。昨年はどんなことをやっていたかなど簡単に見直せることは非常に大事なことだと思うので、デ-タを整理して保存しています。今はもう手書きの人はほぼいなくなりました。
パソコンの台数もクラスに1台+タブレットが1台あります。その他にも事務所にもパソコンがあり、それらすべてネットワ-クで共有されていて、保存場所もサ-バ-で管理されています。
―これによって職員の働き方や保育の質にはどのような影響がありますか?
まずは、時間の削減です。例えば、子どもが20人いたら、親が迎えにきたときに、一人ひとりに立ち話で今日の出来事を話したとしたら、20回繰り返すことになります。
しかし、今日あった保育園での活動をパソコンで書いてドキュメンテ-ション化し、先に玄関ボ-ドに掲載しておいたら、もっと深い話ができますし、時間も短縮することもできます。保育の世界はプロセスが重視されますので、そこに至る経過がどうだったかを記録することが重要です。
例えば、毎年、運動会をやっているけれども「今年は運動会で御神輿を担ぐことになりました」と結果だけ伝えたら「は?」となりがちですよね。
でも、プロセスを伝えていくと変わります。
運動会の練習をしていたら、なぜか子どもたちが棒を担ぎ始めました。
棒を担いでいたところに、さらに上に飾りを乗せたいと言い始めて、自分で飾りをつくり始めました。なぜかそれがどんどんも盛り上がっていって、ものすごく立派なものを作り上げました。
運動会がチ-ムワ-クと体力向上が目的であるとするならば、十分に御神輿で目的は達成できるし、子どもたちの興味関心がこのような形で動いていったので、今年は御神輿担ぎになりました。と説明をすると保護者は納得してくれます。
だからうちは毎年「お楽しみ会」という名は打つけれども、やることは変わります。それでも保護者にご理解いただいているのは、なぜこの会でこの活動になったのだろうというプロセスを数カ月かけて分かってくれているからだと思っています。
このように、ICTで見える化をしておくと、プロセスが理解でき、なぜ子どもたちがこれをしたくなったのかが分かるようになります。
行事は、たまたま子どもたちの日常の園生活で成長したことを発表する場であって、大人は「これをやりなさい」と関与しすぎることはありませんと、宣言をしています。これがわかってもらえているのも見える化のおかげでもあります。
またうちでは、「発達支援ソフト」も導入しています。この支援ソフトでは、発達成長段階を客観的に判断できる物差し機能が付いています。このソフトを使い、子どもの発達状況をタブレットに記録しています。
なぜ、記録しているかと言うと、保育には物差しが得にくいからです。
ベテランと新人で子どもに対する保育の経験が異なります。例えば、2歳のA君に対する見立てで、あと1~2カ月経つとこういうことができるようになるから、このようにした方が良いということは、ベテランなら分かるけども、新人はそこまで分からないかもしれないですよね。
あるいはA君は「この段階まで成長したな」というのは、もしかしたら、別のクラスから来て初めて2歳児を担当した人の視点から分かって、ベテランには分からないということもあるかもしれません。
A君という同じ人間なのに、その子に対する見立てが変わってしまったりする場合があります。そのため、この物差し機能がついたソフトを活用しています。このことで、年度が変わったときにも、一人ひとりの子どもの発達状況や特性、その後の保育計画が一目でわかるようになりました。これを活用することで、伝え合う時間も短縮することができています。
最終的にはまともな働き方で楽しく自分らしく働きたかったんだというところに行きつきます。まだまだ、出来上がっているわけではないけど、やっとその方向に向かえてきているなという実感があります。
―土橋先生、貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました。
社会福祉法人龍美 ハッピードリーム鶴間
東京都町田市南町田4-22-7
園長:土橋一智園長先生
定員数:本園110名・分園:26名
職員数:本園34名(保育士28名・保育補助1名・栄養士1名・事務2名・その他1名)
職員数:分園15名(保育士11名・看護師1名・調理師1名・その他2名)