【教えて!園長】とは、私たちが素敵だと思う園長先生にインタビューをさせていただき、園の取組みを紹介する企画です。
本日は、社会福祉法人 清遊の家 うらら保育園の齊藤真弓先生にお話を伺いました。
(インタビュアー)齊藤先生、本日はよろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
最初にうらら保育園の保育方針について教えてください。
「保育園は地域の生活者として、子どもと職員、そして保護者と作っていく」というのが大きなコンセプトです。
建物も特徴的なのですが、元々は別の場所で3歳未満児保育を30名定員で行っていました。
そこから、高齢者と子ども達、そしてその中間層の職員、様々な世代が一緒に暮らせたら良いねということでここに引っ越してきて、このような建物が建ちました。室内は下町エリアにあるので、路地裏と長屋暮らしのようなイメージで作っていて、部屋は和室になっています。
ここが出来た頃は「日本のレッジョを作るんだ」という先代の想いから、レッジョ・エミリア・アプローチを実践しており、私自身も職員と共にレッジョを2年間本気で学びました。私が2代目の園長に就任した時に、大先輩の園長先生が見学にいらっしゃって、「齊藤さんも外国の教育哲学を学ぶのはとても勉強になるけれども、日本で暮らしている人たちがこれまでの文化を大事にしながら未来を見据えていくことが、これからの日本の保育にとって大切なことになってくると思う。」という一言を聞いたときに、はっとしました。
今でも、レッジョのようなアトリエをイメージしたうららのアトリエは残っているのですが、その時から、「日々粛々と暮らす」という考えを基に保育を実践し始めました。
保育において大切にされている考え方と、実践されていることについて教えてください。
子どもの感性がうんと耕される時期に、本物を子ども達の周りに置こうという所から出発しています。
物との付き合い方としては、出来るだけプラスチック素材や使い捨てのものは使わずに、長持ちするもの、壊れやすいもの、儚いもの等を子どもの周りに当然のように置いて、身の回りにあるものとどうおつき合いをして、大事にするのかを考えています。
その中でも、食事の風景や、食べることの設えや環境は特徴的かもしれません。
うららでは「食べることは生きること」と捉えているのですが、3歳児には、園からお茶碗と湯呑みとお箸を贈呈します。
1人ひとりが様々な柄のお茶碗から、「これが良い!」という自分のインスピレーションで選び、割れなければそれを3年間使い続けます。つまり、3,4,5歳児は自分のお茶碗とお箸、湯呑みを一人ひとつずつ持つのです。
それらを使って、ご飯の日には、子どもたち1人ひとりがお櫃から自分でよそって食べています。
もしお茶碗や湯呑みが割れてしまった場合は、それをコンクリート塀に埋めたり、ザリガニの水槽の中に欠けたお茶碗を入れて「ザリガニハウス」にしたり、裏庭に埋める等、自分なりの愛着を持ったものとのお別れの儀式をどのようにするのかを担任と考えて、自分で決めて実行します。その行為が終わったらまた違う新しいものを選ぶということをやっています。
卒園の時は、お箸はご自宅に持ち帰ってもらうのですが、割らずに使ったお茶碗と湯呑みは、後輩たちに引き継いでもらい、また大事に使うようにしています。
-物を大切にすることが当たり前に、そして楽しくなりそうですね。
人とのお付き合いという点では、生まれてから小学校に上がる前までの保育園時代が日々幸せの原風景であってほしいという想いがあり、人生の始まりを過ごす空間や環境の中で子どもたち1人ひとりの感性や感覚に馴染むか、馴染んでもらえるかということを考えています。
保育者一人ひとりが自分の心や魂が震えるものを子どもたちに提供しないと、それは子どもたちの本質に伝わっていかないと考えていて、例えば、ギターの得意な職員がギターを弾きながら子どもたちが歌うとか、太鼓のジャンベが好きな職員がいたら、ジャンベでリズムを取りながら子ども達が踊ったり歌ったりするとか、そのようなことを継続しています。
保育を提供するときには、保育士一人ひとりの個体差もあるし、得意不得意もあるので、うららにいる全保育者がすべてを標準的に出来るというのは全く拘っていなくて、得意不得意を補い合いながら、一つのチームで子どもの傍にいるということが、保育者の基本になっています。
職員全員で、「幸せとは?」、「主体性って何だろう」ということを常に考え続けながら保育をしています。
前述のレッジョが本当にやってきたこと、やりたいことと、うららのそれらとは、国も地域も形も異なるけれども、根っこは同じだったというところに気づき、昨年はイタリアでレッジョ・エミリア・アプローチを実践されている方々とシンポジウムをさせていただきました。
20年継続して漸く私が分かってきたという実感があります。
クラス編成などはどのようにされているのでしょうか?
「家庭的な保育」として3,4,5歳児が異年齢保育を実践しています。
うららは3グループに分かれていて、1グループに子どもが13~14人なのですけれども、そこに保育士の担任が一人付いて、昼間の疑似家族を作り、クラス編成していて、担任の苗字(齊藤が担任だと齊藤家)がクラス名なんです。なので、齊藤家の長男から6男までいるとか長女から7女までいるというような形です。
異年齢グループのクラス担任がその生活全般を把握していて、子ども達は誰が長男で次男であるかというのもよく分かっています。
年齢ごとの保育もしているのでその場合はチームという呼び方(3歳児チーム、4歳児チーム、5歳児チーム)をしています。年度が変わる度に、チーム名は子ども達が相談しながら決めます。過去には10月に決まったということもありました。
-同じ年齢の子たちも一緒にいると思うのですが、きょうだい編成はどのように決まっていくのですか?
2歳児の時期の子ども達の様子を見て、次に進級する時に異年齢グループの3つに分かれていくんですけれども、男女比やきょうだい関係、あとは2歳児の姿を観て感じて、3,4,5歳児のどの家族と一緒に過ごした方が3歳時期の過ごしが気持ち良いかという所を、職員間で話し合いながら決めていきます。
バランスが崩れると全体を再編成し直すというのが数年に1度訪れます。
-日々の観察と感じることも大事なのですね。
職員の働く環境づくりにおいて、実践されていることを教えてください。
職員の異年齢グループを作っています。
まず、経験年数(アダルト:リーダー層/ミドル:中堅層/ヤング:新任・初任層)に分けて、A,B,Cという3つの異年齢のワーキンググループに分けています。
それぞれ1年間の研究テーマを設けて外部の研修を受けに行ったり、うららの保育のことを考えたりというようなことをやっています。
たとえば、Aチームは園庭について、Bチームはリスクマネジメント(安全管理)について、Cチームは業務効率化について考えるなどです。
ワーキングループでOJTもやっていて、いつもチームで動いています。
行事があまりない保育園なのですが、「子どもの日を祝う会」という行事をやる時にも、このチームごとで企画・運営をしています。
-どのくらいの期間、同じチームで活動するのですか?
職員の入れ替わりや職員一人ひとりの研修テーマ(学びたい目標設定)を見ながらなのですが、アダルトとミドルはあまり変わらず、ヤングが入ってくる時はバランスが悪くなると再編成するんですけれども、2,3年は一緒に動いています。
2,3年経つと大体の課題の解決と新たな目標設定に到達するので、また新たにうらら保育園全体のもう少し考えなければならないことを課題にして、その課題を考えるワーキンググループが出来上がるという感じです。
また、全体職員会議や園内研修については、アダルト達(リーダー層)に企画・運営してもらいます。
皆で話し合っておきたいテーマの抽出もアダルト層にやってもらいます。「園長・副園長が主導しない」ということを始めて4年経つのですが、昨年から定着し、ほぼ理想に近づいてきました。
組織には時にトップダウンも必要ですが、皆で考える、話し合うということについては、園長・副園長は口を出さないという約束をして、若い職員たちがどんどん力を付けてきてくれています。外部講師と企画した「保育ファシリテーター養成講座」に職員が参加してくれたこともあり、確実に会議が変わってきました。
私より上の先輩たちと今の私たちと私たちより若い人たちとで、風土を生み出すとか組織を作るということへの価値観が違うと思うんですよね。
この先何十年先を見ながら組織づくりをするかという所が日本の保育園や幼稚園業界に求められていると思っています。
そして、そこには必ず「面白さ」や「気持ち良さ」がベースになければこれからの未来を背負っていく人たちは窮屈になってしまうと私は考えています。
「ものを作り出す」とか「生み出す」といった新たな価値、世界ではそれがスタンダードになっていますが、日本も漸くそれが普通の言葉で話せるようになってきたと感じています。
また、「スキル」や「マインド」というのも漸く保育業界に浸透してきたと思うんですけど、本質のハートの所をどう職員、子ども達、保護者と共にこの保育園という中で作っていくかというところに拘り続けたいと思っています。
そういう時間を確保するためにも、物事を効率的にするというのは大事で、昨年からからICT化に取り組んでいます。
でも「ここは外せないよな」というのがまだうららの中にあるので、業者泣かせだと思っていますが、それでも整理整頓しておかないと、次の世代の人たちのやりやすさがなくなっていくと思うので、昨年から今年はうららの中の整理整頓と効率化に拘っています。
他に職員同士のコミュニケーションを円滑にするために行っていることがあれば教えてください。
「勝手なサークル」というものがあります。これは制度ではなく、職員がやりたいことを周知してやりたい人を集めてやっているもので、最近では「染物部」とか「とにかく木を削って木だまを作る部」等があります。
また、職員旅行は2年に1度行っていて、行く先は職員が決めています。同じ釜の飯を食べて飲んで帰ってくるというシンプルなことですが、大切なことではないかと思うので続けています。
-そのようなサークル活動が自然発生的に行われるのは、コミュニケーションが円滑な証拠なのだと思いました。
-本日は、貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。
こちらこそ、お話を聴いていただき、ありがとうございました。
社会福祉法人 清遊の家 うらら保育園
東京都葛飾区西新小岩3丁目37番27号
園長:齊藤真弓先生
定員数:70名
職員数:35名(園長1名・保育士19名・看護師1名・栄養士・調理員4名・事務1名・その他若干名)