【教えて!園長】vol.6 RISSHO KID’Sきらり&分園ポピー「坂本喜一郎さん」

2019.10.28
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【教えて!園長】とは、私たちが素敵だと思う園長先生にインタビューをさせていただき、園の取組みを紹介する企画です。

本日は、社会福祉法人たちばな福祉会 RISSHO KID’Sきらり&分園ポピーの坂本さんにお話を伺いました。

 

(インタビュアー)坂本さん、本日はよろしくお願いいたします。

よろしくお願いいたします。

 

最初に保育方針について聞かせてください。

きらり最大の環境的コンセプトの根底にあったものは「どうやったら出来るか」です。

8年前にきらりをつくった時、職員に伝えたことの一つが「出来るか出来ないかで考えたら、うちは園庭がない時点で負けている。園庭がないから出来ないという考えを持った瞬間に私達の園はきっといつか滅びる。

だから出来るか出来ないかの議論をするのではなく、園庭がある園以上に努力をして魅力的な保育園を創造すれば必ず地域から支持される」ということでした。

そしてその時に出た最大の答えが、「園庭の代わりにこの地域資源を全て園庭だと思えば良いのではないか」というものでした。

 

そしてもう一つが「一人の“夢”がみんなの“夢”になる 一人の“幸せ”がみんなの“幸せ”になる」という当園の理念です。言うなればきらりはこれしかやっていません。

また、きらりは元々お寺さんの系統なので、“共生”という法人理念があります。
それは「皆と仲良くしなさい」といった上辺のものではなく、「そもそもあなたが生きているのは、人によって生かされていることを忘れるな」という教えです。

つまりは、「一人の幸せがみんなの幸せになる」というのは、裏を返せば、「あなたが幸せになれたのは皆のおかげでしょう?」「一緒に幸せだと思ってくれる皆がいるからあなたは幸せになっているのではないですか?」という問いになります。

 

最後に、「群れる」という考え方です。集団でもなく、集まるでもなく、群れる。
普段は中々この言葉は使いませんが、これを知らないと教育は出来ません。
群れるから面白いことが起きます。ですから、群れを解体してはいけません。
行き過ぎた0・1歳児の担当制は群れを解体し、“1対1”という個に密着しすぎてしまう危険性を感じています。

子どもは腹ばいになった瞬間に動き始め、興味がある先で友達と会う。
これが群れていくきっかけになります。共通のおもちゃや先生を媒体にしてくっついていくのです。これが「群れる」です。

 

保育において大切にされている考え方と実践されていることについて教えてください。

一つは、“保育者の専門性として保育環境デザインの力(昔で言うと環境構成)があるか”です。
これは、専門性として絶対になければならないことです。何故なら環境がなければ保育が出来ないからです。

 

もう一つは、“保育の姿勢”つまり“待つ・待てる”です。これが究極に難しい。
何故かと言えば、“待つ”不安に打ち勝たなくてはならないからです。待つのが怖い。
簡単に言うと“自分に負ける”ということです。
子どものことは好きだけど自分にはなかなか勝てない。

不安というのは何に対してでしょうか?
子どもというのは、すぐに我々大人の思っているようにはなりません。すると待たなくてはいけない。けれど、中々変わらないから「大丈夫かな?」「自分のやり方は間違っていないかな?」といったことを考えます。

そうした不安から回避しようと「待たない」選択をし、結局手を出したり、変に発破をかけたりします。これが現場のプロとして最大の課題だと考えています。

 

待つことの例として、2歳の部屋には普通にはさみが置いてあります。
皆を集めて切るとなると、切りたい子もいるし、切りたくない子もいる。
切りたくない子に無理やりやらせても嫌いになるし、はさみの扱いが上手くいかず結果危ないのです。

その時に「楽しい」と思った子どもは良いけれど、「楽しくない」と思っている子どもも2割ぐらいはいる。その2割の「やりたくない」という子どもの意思を無視して良いのかと考えます。
教えても身に付くものではないと考えていて、やりたい時にやるから身に付くというのを優先しています。

「やりたい」と思った時に「こうやるとより良いんじゃないの?」という保育者のモデルとしての姿を見せると自然と身に付いていきます。
今日はさみを使う子どもがいれば、次の日に使いたい子どももいれば、1週間後、2週間後の子どももいるのです。

友達がやっている姿や先生が楽しそうに切る姿を見ているから、「私もそろそろ行って切ってみようかな」と思う時が自然に訪れるのです。
そういう時に「よく来たね」と温かく迎え入れることで、子どもは「楽しい」と感じられるから新たな能力が身についていくのです。

 

そして最後に“積み上げることの出来るチームワークがあるか”です。
簡単に言えば、0歳児の担任が乳児保育としてやるべきことをきちんとやって次に受け渡せば、1歳児は更にその上に新たな育ちを積み上げることが出来るようになります。

きらりは正に「この育ちの積み上げ」を大切に保育をしています。

一方で現場によっては、0歳児クラスできちっとやったとしても次のクラスで「私たちは良いよ、このくらいで。どうせ出来なくたって2歳児クラスがやってくれるから。」といった育ちの積み上げが上手くいかないケースもあったりします。
そうなると次の2歳児クラスは大変ですよね。2歳児クラスの育ちの土台そのものが十分に育ってきていないのですから。

 

当園の理念である「一人の幸せがみんなの幸せになる」というのは正にそういう意味です。あなたが幸せになって、周りが自然と笑顔になっているような関係性が“生きる”という意味で必要だからです。
子どもは自分がやりたいからやっているけれど、その子に巻き込まれ自然に群れて気がつくと皆が幸せになっています。

それは先生も同じで、「一人の幸せがみんなの幸せになるような働き方をしてください」ということです。
これが究極の“積み上げ”なのです。

うちの子ども達が電車に乗って何処にでも行けたり、江の島に行って十数回もシュノーケリングしたりといったことが当たり前に出来るのは、0歳~5歳までのチームの積み上げがあるからです。
組織としてのプロのチーム力があれば、幼児は必ず輝きます。

 

クラス編成はどのようにされているのでしょうか?

1日のうちの6割の時間は異年齢で保育が展開されています。

うちには現在、25人の職員がいるのですが、「25通りの魅力を持っている人間がいるからきらりは素敵」という考え方でやっています。

 

―子どもはそれだけの大人に出逢えるから、自分に合った憧れが見つかるということですね。

それがうちの最大の武器です。25通りの大人がいるということは、子どもも25通りの「生き様(=魅力的な生き方)」の選択肢があるということ。しかもミックスしていけば無限大の確率があります。

僕の最終的な夢は“クラスのない保育園”をつくること。赤ちゃんだろうが年長児だろうが、自分の好きな・波長の合う・魅力を感じる友だちや先生の所にいつでも行けるよう園をつくることです。

 

―なるほど。

きらりはクラスがあってもクラスの枠を越えて先生も子どもも関わり合うことができる魅力を大切にしています。

一方で、職員間で派閥があるような園に行くと残念ですが子ども達はクラスの枠を超えて関わることが出来ません。

そうなると、子ども達は限られた保育者の生き様にしか触れることができませんのでとても残念に思います。

 

たまたま管理上、クラスがないと保育者が困るだけであって、“そのクラスにいるからその保育者とだけしか関わってはいけない”というルールはありません。
全保育者と全園児が、お互いの魅力を感じ合いながら自由に関わり育ち合うことが何より重要なことだと感じています。

また、午前の外出時はクラスで移動しますが、その中でも幾つかのグループに分かれ、それぞれ行きたい所に行きます。例えば担任が2人だとしたら2か所、3人いれば3か所に分かれるといったようになります。子ども達はその中から一緒に行きたい人ややりたい事を選んで行きます。

 

―それは流動性があるのですか?「今日はこのグループ」ですとか。

子ども達が朝の会で“今日やること”について議論し自分たちで決めます。
例えば、「今日はこんな所に行ってみたい」「僕は昨日あそこに行ってあの続きをやるから、もう1回行きたい」「昨日蝉取りをやって面白かったから今日も続きをやりたい」といったように。それでグループを編成して、2か所や3か所に分かれていきます。

1歳児や2歳児は4人担当なので、4か所に分かれて行きます。

0歳から散歩に出て行くと幼児になる頃には「この街にはどんな公園があって何が出来るか」ということが全部インプットされているので、「これをやるならあの公園が良いよね」「これをやるんだったら、あの森に行こう」など、街を使いこなせるようになります。

 

保育において大切にされている考え方と実践されていることについて教えてください。

この8年間でまず取り組んだ課題は、職員が必ず最初に言う「残業を減らしたい」ということです。最初は誰もやったことのないことをやっていたので、皆21時ぐらいまで残っていました。すると、職員から「早く帰りたい」「残業が多すぎて良くない」といった声が挙がりました。

僕のマネージメントのポイントは、管理職から「こうしない?」と提案するのではなく、「こういう問題があるんですけど、どうにかなりませんか?」と現場の声が上がってくるのを待つことです。こちらから「改革した方が良いんじゃないの?」と言った時点で既に現場は受け身になってしまいますから。

 

―ここでも“待つ”のですね。

そうです。
僕が「残業が大変だよね」と言ってしまったら、全部園長からトップダウンで指示が下りてくると印象付けてしまいます。ですから主任を筆頭に「若い子達が多いし、治安の問題もあるから早く帰った方が良いと思うんです。皆、残業を減らす努力をしたいと言っています。」と言ってきた時に、「それは僕もそう思っているよ。どうやったら減らせるかクラスリーダー会で何が根本的な問題なのかを考えて僕に提案してください」と伝えました。

すると、書類の多さが問題の根本とのことだったので、「じゃあ、減らすしかないね。でも指導監査もあるし闇雲に減らしたら駄目だよね。あと質が下がるような減らし方も問題だよね。質が担保されるもしくは質は向上するけれど書類は減らせるという理想が叶う案があれば持ってきてほしい」と伝え待つことにしたのです。

 

そして最初に行った改革が、「指導計画」の見直しです。
指導計画には、「全体的な計画」「長期指導計画」「短期指導計画」があり、指針には必ずなくてはいけないと書いてあります。
よくよく考えてみると、全体的な計画は最も普遍的なものなので、保育の背骨や頭脳のようなものなので毎年変わる訳ではありません。

 

次に、「長期指導計画」ですが、指針には年間・期間別・月別の3種類があると示されていますが、全部作るとは一言も書いてありません。
ですからきらりでは年間指導計画(期間別記載)のみ作成しています。
そして短期指導計画では、具体的な保育を見通しを持って丁寧に創造するのに最適な週日案日誌を各クラスの保育者が熱心に楽しんで作ってくれています。

 

―これで業務が減っていく訳ですね。
年間の見通しは身の回りの環境が毎年大きく変化することはありませんので、各年齢の大きな枠組みとして私が作っています。
ですから保育者が作っているのは週日案だけです。今まで全体で100%使っていた労力を70%くらいで作成し、しかも質は向上したのです。

 

他には、環境デザインで必要な素材や道具の買い出しに関しても、以前は17時以降に買いに行っていたのですが、今では保育時間内に子どもと買い物に出掛けることで残業時間を無くすようにしています。
こうすることで地域との接点も生まれ、地域の勉強もでき、買い物の仕方も自然と身につきます。

子ども達は、色々なものがあるのだと分かれば勉強になりますし、自分たちで素材を選ぶことでモチベーションも上がります。
ですから、午後部屋で遊んでいる子もいるけれど、グループによっては「今日は買い出しに行きます!」と言って買い物に行く姿も認めています。

室内の環境デザインをする時も以前は、保育者が子どもが帰ってからやっていましたが、特に幼児は、「環境は子どもと一緒に作っていこう」と一緒にレイアウトを考えて作っています。

以上のような様々な工夫を生み出しながら残業を減らしてきました。

 

また、きらりは心のゆとりも大切にしていて、子どもも寛ぎが重要ですが、先生も同様に重要だと考えています。

更に職員が寛げる案として現場から出てきたのが「ランチタイム制度」で、3年前から実施しています。同期を中心にローテーションを組み、月に1・2回、昼に90分保育を抜けて好きなランチを食べに行けます。

何より面白いのが、ランチの日は皆保育着から私服に着替えて出掛けていく姿です。まるでOLみたいですよね。ランチ後は、みんな嬉しそうに帰ってきます。要はどんなに子どもが好きでも、いつも一緒だと息が詰まる。

子育ても同様ではないでしょうか。
子どもからちょっと離れられる瞬間を作るというのがランチタイム制度のメリットで、そういう時間があるとその後の仕事がさらに頑張れるようです。

 

―本日は多岐に渡る貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

 

【園情報】
社会福祉法人 たちばな福祉会 RISSHO KID’Sきらり&分園ポピー
神奈川県相模原市南区相模大野4-5-5 D棟2階
園長:坂本喜一郎先生
定員数:90名
HP:http://rissho-kids.jpn.org/kirari/